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大阪地方裁判所 平成9年(行ウ)4号 判決 1998年4月21日

大阪府枚方市香里園東之町一三番一四号

原告

福田廣儀

右訴訟代理人弁護士

末澤誠之

大阪府枚方市大垣内町二丁目九番九号

被告

枚方税務署長 松浦清

右指定代理人

岩松浩之

長田義博

中村光春

後藤利江

主文

一  本件訴えのうち、原告の平成五年分及び平成六年分の所得税に係る各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分の取消しを求める訴えをいずれも却下する。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が平成七年五月二日付けでした原告の平成五年分の所得税の更正処分のうち、課税総所得金額一六〇一万八〇〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取消す。

2  被告が平成七年五月二日付けでした原告の平成六年分の所得税の更正処分のうち、課税総所得金額一七三四万九〇〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取消す。

3  被告が平成八年六月五日付けでした原告の平成七年分の所得税の更正処分のうち、課税総所得金額一八八〇万円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取消す。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同じ。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、所得税法一四三条所定の青色申告の承認を受けた者であり、平成六年三月一〇日、被告に対し、青色申告書により、別表1の「確定申告」欄記載のとおり、平成五年分の所得税の確定申告をした。原告は、右確定申告において、同年分の総所得金額から控除される医療費(所得税法七三条、同法施行令二〇七条により総所得金額等から控除される医療費、以下単に「医療費」という。)の額を一七二万六三一〇円と申告した。

2  原告は、平成七年三月六日、被告に対し、青色申告書により、別表2の「確定申告」欄記載のとおり、平成六年分の所得税の確定申告をした。原告は、右確定申告において、同年分の総所得金額から控除される医療費の額を二〇〇万円と申告した。

3  被告は、平成七年五月二日付けで、原告に対し、原告の平成五年分の医療費の額は四四万七七一〇円であるとして、別表1の「更正・決定」欄記載のとおりそれぞれ更正処分及び過少申告加算税の賦課決定をした。

4  被告は、平成七年五月二日付けで、原告に対し、原告の平成六年分の医療費の額は五七万一〇八二円であるとして、別表2の「更正・決定」欄記載のとおりそれぞれ更正処分及び過少申告加算税の賦課決定をした。

5  原告は、平成七年六月一三日、右3及び4の各決定について、国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、同所長は、平成八年三月一日付けで審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をし、右裁決書謄本は同年一一月ころ原告に送達された。

6  原告は、平成八年三月一一日、被告に対し、青色申告書により、別表3の「確定申告」欄記載のとおり、平成七年分の所得税の確定申告をした。原告は、右確定申告において、同年分の総所得金額から控除される医療費の額を二〇〇万円と申告した。

7  被告は、平成八年六月五日付けで、原告に対し、原告の平成七年分の医療費の額は三三万五三六八円であるとして、別表3の「更正・決定」欄記載のとおりそれぞれ更正処分及び過少申告加算税の賦課決定をした。

8  原告は、平成八年八月二日、右7の各決定について、国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、同所長は、平成八年一二月三日付けで審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をし、右裁決書謄本は同年一二月末ころ原告に送達された。

9  原告の母福田喜美(以下「喜美」という。)は、老人福祉法(以下「福祉法」という。)五条の三に規定する特別養護老人ホーム(以下「特別養護老人ホーム」という。)である「るうてるほーむ」(以下「るうてるホーム」という。)に平成三年九月六日から入所していた。

原告は、守口市長に対し、喜美のるうてるホームの入所に関し、福祉法二八条一項に規定する措置費徴収金(以下単に「本件徴収金」という。)として、平成五年中に一二七万八六〇〇円、平成六年中に一七三万二八〇〇円、平成七年中に二二一万九四〇〇円を、それぞれ支払った。

10  以下の理由により、本件徴収金は医療費に該当する。したがって、平成五年分ないし平成七年分の課税総所得金額及び所得税額の算出にあたっては、所得税法七三条に定める医療費控除として、平成五年分については総所得金額から一七二万六三一〇円が、平成六年分及び平成七年分についてはそれぞれの総所得金額から各二〇〇万円が、それぞれ控除されるべきである。

(一) 喜美(大正三年一月三〇日生)は、平成三年以降、多発性脳梗塞(老人性痴呆)、糖尿病、慢性肝炎と診断され、これらの疾病に対し常時医療行為が必要な状態であり、自宅介護では生命に危険が伴うが、徘徊のため通常の病院に入院できないことから、特別養護老人ホームであるるうてるホームに入所している。

るうてるホームは、医療機関と同質の施設であって、同所においては、定期的に週一回あるいは必要な場合随時常駐の医師の診療が受けられ、さらに専門的に訓練を受けた職員(看護婦、寮母、ケースワーカー、栄養士、調理員及び看護コンサルタント等)による常時の看護が受けられる。また、「老人保護措置費の国庫負担について」(昭和四七年六月一日厚生事務次官通知・厚生省社第四五一号)が定める算定基準は、特別養護老人ホームにおける医師人件費単価を定めており、特別養護老人ホームには医師を常駐させることを前提としている。

(二) 老人保健法(以下「保健法」という。)六条四項に規定する老人保健施設(以下「老人保健施設」という。)の入所者が同施設に支払う利用料は医療費控除の対象とされている。老人保健施設と特別養護老人ホームは、実際上、その機能及び運営上区別し難い状況であり、看護の仕方についてもその差異はほとんどなく、いずれに入所するかは、施設側の余裕の有無により決まる。仮に、特別養護老人ホームの施設利用の対価たる性質を有する措置費徴収金を医療費控除の対象としなければ、課税において著しく不公平であり、憲法一四条に違反する。

11  原告は、本件徴収金、並びに前記3、4及び7において被告が医療費として認めた分以外に、平成五年中に一万四六五〇円、平成六年中に三万四一〇八円、平成七年中に四万三九七四円の医療費をそれぞれ支払っており、これらについても医療費控除の対象となる。

12  右11の他に、喜美がるうてるホーム診療所において医師の診断を受けたことにより平成七年中に合計三五万三七二〇円の医療費(老人保健制度による診療報酬の公的負担分)が大阪府四條畷市から保険医療機関である同診療所に対して支払われているが、原告は右金額以上に本件徴収金を支払っているから、右金額も医療費控除の対象となる。

13  よって、原告は、被告に対し、前記3、4及び7の各処分の取消しを求める。

二  被告の本案前の主張

後記三2のとおり、原告の平成五年分及び平成六年分の所得税に係る前記一5の裁決書謄本は平成八年三月末ころまでには原告に送達され、原告はそのころ右裁決のあったことを知った。したがって、本件訴えのうち、請求原因3及び4の各処分の取消しを求める訴えは、行政事件訴訟法一四条四項、一項所定の出訴機関経過後提起されたものであるから不適法である。

三  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし4の事実は認める。

2  同5の事実のうち、原告が請求原因3及び4の各決定について平成七年六月一三日に国税不服審判所長に対し審査請求をしたこと、同所長が平成八年三月一日付けで審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をしたことは認めるが、右裁決書謄本が同年一一月ころ原告に送達されたことは否認する。右裁決書謄本は同年三月末ころまでに原告に送達された。

3  同6ないし8の事実は認める。

4  同9の事実のうち、原告の母である留美が特別養護老人ホームであるるうてるホームに入所中であること、原告が守口市長に措置費徴収金を支払っていることは認め、その余は否認する。

5  同10ないし12の事実は否認し、主張は争う。

四  被告の主張

1  原告の平成七年分の所得税に係る各所得、医療費控除の金額、その他の控除の金額、特別減税額及び源泉所得税額は、別表3の「更正・決定」欄の<1>ないし<5><8><9>のとおりである。

2(一)  医療費控除の対象となる医療費は、所得税法七三条二項において、「医師又は歯科医師による診療又は治療、治療又は療養に必要な医薬品の購入その他医療又はこれに監査する人的役務の提供の対価のうち通常必要であると認められるものとして政令で定めるもの」と規定され、これを受けて、同法施行令二〇七条において医療費の範囲が限定列挙され、さらに、所得税法基本通達(昭和四五年七月一日直審(所)三〇(例規)「所得税基本通達の制定について」国税庁長官通達七三一三)が定められている。

(二)  特別養護老人ホームの入所対象者は、福祉法一一条一項二号において、「六五歳以上の者であって、身体上又は精神上著しい障害があるために常時の介護を必要とし、かつ、居宅においてこれを受けることが困難なもの」と規定されているが、さらに具体的には、「老人ホームへの入所措置等の指針について」(昭和六二年一月三一日厚生省社会局長通知・社老第八号)により、以下の要件を満たす場合を入所対象者としている。

<1> 健康状態について、入院加療を要する病態でないこと及び伝染病疾患を有し、他の被措置者等に伝染させる恐れがないこと

<2> 日常生活動作の状況について、入所判定審査票により、歩行、排泄、食事、入浴、着脱衣の各項目について日常生活動作を検討した上、その検討事項のうち、全介助が一項目以上及び一部介助が二項目以上あり、かつ、その状態が継続すると認められること

又は、精神の状況について、右審査票により痴呆等精神障害の問題行動を検討し、それが重度又は中度に該当し、かつ、その状態が継続すると認められること

ただし、著しい精神障害及び問題行動のため医療処遇が適当な者を除く。

特別養護老人ホームは、右のような入所対象者を養護する施設であるから、家族に代わって日常生活の世話をする「福祉施設」であって、医師等による診療、治療等を受けることを目的とする「病院」又は「診療所」には該当しない。

(三)  措置費徴収金は、市町村が特別養護老人ホームへの入所又は入所委託の措置のために支弁する措置費について、原則として、入所者及び扶養義務者の負担能力に応じて決定されるものであり(応能負担)、入所者の受けたサービスの対価性を考慮して決定されるものではなく(なお、措置費は事務費、生活費、移送費及び葬祭費から構成されている。)、所得税法七三条二項、同法施行令二〇七条の各号に該当しない。

(四)  なお、老人保健施設は、保健法四六条の一七第一項において、医療法以外の法令(健康保険法、国民健康保険法等を除く)の「病院」又は「診療所」に含まれる旨規定されており、医療法一条の二第二項においても「医療提供施設」として規定されている。このように、老人保険施設では診療または治療行為が行われることが当然の前提とされている。そして、老人保険施設に係る利用料は、直接施設と利用者との間で授授され、その内容は、主として診療又は治療行為の対価であって、それは医療費控除の対象となる。そして、それ以外の日常生活に要する費用は、もちろん医療費控除の対象外となる。

(五)  このように、特別養護老人ホームと老人保健施設とは、その設置目的及び性格等が異なり、その費用負担の性格も全く異なる。

4  以上のとおりであるから、本件徴収金が医療費に当たらないことを前提とする前記一7の各処分は適法である。

また、原告が請求原因11において医療費として主張する支払いのうち、平成七年分については、原告は、同年分の所得税の確定申告に際し、所得税法施行令二六二条一項二号に規定する領収書等の添付も提示もしていない。また、右支払いの中には原告が支払ったものではないものや医療のために必要な費用ということはできないものも含まれている。したがって、右の支払いについては、医療費控除の手続的要件を充足せず、一部については実体的要件も欠く。

五  被告の主張に対する原告の認否

被告の主張1の事実のうち、医療費控除の金額は否認し、その余は認める。

第三証拠

本件訴訟記録中の「書証目録」記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1ないし4の事実、同5の事実のうち、原告が請求原因3及び4の各決定について平成七年六月一三日に国税不服審判所長に対し審査請求をしたこと、同所長が平成八年三月一日付けで審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をしたこと、同6ないし8の事実、同9の事実のうち、原告の母である喜美が特別養護老人ホームであるるうてるホームに入所中であること、原告が守口市長に措置費徴収金を支払っていること、及び被告の主張1の事実のうち医療費控除の金額以外(その余の課税要件)は、いずれも争いがない。

二  原告は、平成八年一一月ころ請求原因5の裁決書謄本の送達を受けた旨主張する。

しかし、乙第一号証の一、二、第九号証によれば、右裁決書に係る裁決は同年三月一日付けでされ、同年四月一日右裁決書謄本が原告に送達されたことが認められ、原告は、この点について何らの具体的な主張立証もしないから、右裁決書謄本が送達されたころに原告は右裁決があったことを知ったものと推認される。

そして、原告が平成九年一月三〇日に本訴を提起したことは記録上明らかであるから、本訴訴えのうち、平成五年分及び平成六年分の所得税に係る各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定の取消しを求める訴えは、行政事件訴訟法一四条四項、一項に定める出訴期間経過後に提起された不適法な訴えであるというべきであり、却下を免れない。

三  そこで、以下においては、平成七年分の所得税に係る更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分が適法であるか否かについて判断する。

1  まず、本件徴収金が医療費に当たるかどうかを検討する。

(一)  医療費控除の対象となる医療費について、所得税法七三条は、医師又は歯科医師による診療又は治療、治療又は療養に必要な医薬品の購入その他医療又はこれに関連する人的役務の提供の対価のうち通常必要であると認められるものとして政令で定めるものをいうもの、と定め、これを受けて所得税法施行令二〇七条は、右の対価とは、<1>医師又は歯科医師による診察又は治療、<2>治療又は療養に必要な医薬品の購入、<3>病院、診療所又は助産所へ収容されるための人的役務の提供、<4>あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師、柔道整複師による施術、<5>保健婦、看護婦又は准看護婦による療養上の世話、助産婦による分べんの介助の対価のうち、その病状に応じて一般的に支出される水準を著しくこえない部分の金額とする旨を定めている。

(二)  ところで、特別養護老人ホームは、「六五歳以上の者であって、身体上又は精神上著しい障害があるために常時の介護を必要とし、かつ、居宅においてこれを受けることが困難なもの」を入所対象者として、これを養護することを目的とする老人福祉施設である(福祉法五条の三、一一条一項二号、二〇条の五)。すなわち、特別養護老人ホームは、右のような者に入浴、排せつ、食事等日常生活を営むために必要な介護を家庭における家族あるいは扶養義務者に代わって行う施設として福祉法上位置付けられているのであって、入所者に対し医療行為を行うことを目的とするものではない。

(三)  そして、市町村は、必要に応じて、特別養護老人ホームの入所対象者を当該地方公共団体の設置する特別養護老人ホームに入所させ、又は当該地方公共団体以外の者の設置する特別養護老人ホームに入所を委託する措置を採らなければならず(福祉法一一条一項二号)、右措置すなわち入所に係る費用(措置費)は市町村が支弁する(同法一一条二号)。ただし、当該市町村の長は、その支弁に係る費用について、入所者又はその扶養義務者から、その負担能力に応じてその全部又は一部を措置費徴収金として徴収することができることとされている(同法二八条一項)。

右のように、措置費徴収金については、入所者が特別養護老人ホームにおいて受けるサービスの内容とは直接には関係なく、入所者又はその扶養義務者の負担能力に応じて定められるいわゆる応能負担の原則が採られている。これは、老人ホームの入所者及びその扶養義務者は一般的に負担能力を有していること、老人ホームに入所すれば日常生活に必要なほとんどのサービスが受けられることから、在宅の要介護老人と負担の均衡を図る必要があること、入所者の主体的な利用意識を高めることなどの理由から政策的に定められたものである。このように、措置費徴収金は、入所者が特別養護老人ホームにおいて受けるサービスの内容とは直接に関係がなく、個々の入所者が受けるサービスの対価とみることはできない。

そして、乙第五号証によれば、福祉法二六条一項により国庫負担の基準となる措置費は、「老人保護措置費の国庫負担について」(昭和四七年六月一日厚生事務次官通知・厚生省社第四五一号)により、事務費、生活費、移送費、葬祭費から構成され、右事務費中には医師人件費(常勤医師又は非常勤医師)が費目に掲げられていることが認められる。ただ、右の国庫負担の基準となる措置費には個々の入所社に対する医療の対価に該当する項目は含まれておらず、しかも、右乙第五号証及び乙第六号証によれば、右通知において定められている特別養護老人ホームの個々の入所者に係る措置費の支弁額は、当該入所者が現実に受けるサービス内容とは無関係に右基準に従い一律に算定されていて、この額が措置費徴収金の上限とされていることが認められる。

また、甲第一三号証、第一七号証、第二〇号証の一、二によれば、特別養護老人ホームの医務室において診療を受けた場合、措置費徴収金とは別途に入所者に対して右診療に係る医療費(自己負担額)が特別養護老人ホームから請求される扱いになっており、原告においても、喜美がるうてるホーム診療所において受けた診療について、措置費徴収金とは別個に医療費(自己負担額)を支払っていることが認められる。

このようにみてくると、措置費徴収金は、特別養護老人ホームにおいて入所者が受けるサービスに対応する対価たる性質を有するものと観念することはできないというべきで、仮に、特別養護老人ホームの入所者に対するサービスの中に所得税法施行令二〇七条所定の前記<1>ないし<5>に該当するものがあるとしても、同条所定の「対価」たる要件を欠く。

(四)  以上によれば、本件徴収金は、所得税法七三条二項、同法施行令二〇七条に該当する余地はなく、医療費には当たらないというべきである。

(五)  なお、原告は、老人保健施設は、入所者の受ける医療、看護及び介護の実体において特別養護老人ホームの場合とほとんど差異がなく、現実には両施設のいずれに入所するかについて入所者の側に選択権はないにもかかわらず、老人保健施設の利用料は医療費控除の対象とされる旨主張する。

しかし、特別養護老人ホームへの入所が行政庁による入所措置に基づくものであるのに対して(福祉法一一条一項二号)、老人保健施設への入所は、入所申込者と老人保健施設との直接の契約に基づくものであり(「老人保健施設の施設及び設備、人員並びに運営に関する基準」(昭和六三年厚生省令第一号)一三条)、入所者が老人保健施設から受けるサービスの対価のうち、食費及び特別な療養室の提供により必要となる費用、おむつ代、理美容代その他の日常生活に要する費用の範囲内において入所者が直接同施設に理容料を支払う(同省令二五条及び老人保健法施行規則二三条の二の二、なお、入所者が老人保健施設から受ける右以外の医療の費用については、保健法四六条の二により、市町村長が老人保健施設療養費を支給することとされている。)こととされており、このように両施設の費用負担の仕組みが異なり、措置費徴収金と老人保健施設における利用料とはその性質を異にするものといわなければならない。

2  次に、原告は、請求原因7の更正処分において被告が医療費として認めた額以外にも、平成七年中に四万三九七四円の医療費をそれぞれ支払っている旨主張する。

しかし、所得税法一二〇条三項一号、同法施行令二六二条一項二号は、医療費控除の適用を受けようとするときは、確定申告に際し、所得税法七三条二項に定める医療費についてこれを領収した者の領収を証する書類を確定申告書に添付して提出し、又は確定申告書の提出の際に提示しなければならない旨定めており、同年分の所得税の確定申告に際し、原告が右の支出について右に規定する「領収を証する書類」を被告に提出ないし提示したことを認むべき証拠はない。のみならず、本訴において原告が右主張を立証するものとして提出した甲第一七号証及び第二〇号証の二も右書類に該当するものとはいえない。したがって、原告主張の額が医療費控除として総所得金額から控除されるべきであるとの原告の主張は失当である。

3  また、甲第二〇号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば、喜美が平成七年中にるうてるホーム診療所において医師の診療を受けたことにより老人保健制度による公的負担分として合計三五万三七二〇円の医療費が保険医療機関である同診療所に対して支払われていることが認められるところ、右医療費は原告が支払ったものではないから、所得税法七三条により総所得金額から控除される医療費には当たらないことは明らかである。右医療費は、原告の本件徴収金の支払いとは無関係であるから、原告が本件徴収金を支払ったからといって、原告が医療費を支払ったものとは到底評価し得ない。したがって、原告の主張は理由がない。

4  右のとおりであるから、本件徴収金は医療費控除の対象とはならないし、他にも平成七年分の所得税について総所得金額から控除される医療費の額が三三万五三六八円を超えて存在することを認むべき事情はない。

そうすると、被告の主張1の医療費控除の金額以外、すなわち他の課税要件については前記のとおり争いがないから、請求原因7の各処分は適法である。

四  結論

以上の次第で、本訴訴えのうち、原告の平成五年分及び平成六年分の所得税に係る各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分の取消しを求める訴えはいずれも不適法であるから却下し、その余の本訴請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民訴法法六一条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 八木良一 裁判官加藤正男、同西川篤志は、転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 八木良一)

別表1

平成5年分の課税の経緯及びその内容

<省略>

別表2

平成6年分の課税の経緯及びその内容

<省略>

別表3

平成7年分の課税の経緯及びその内容

<省略>

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